マンションの建設現場を通りかかったら、お弁当を売りにきていたおばさんに声をかけられた。 「私、弁当屋なのに割り箸を忘れてしまって。お弁当二つあげるから、買ってきてくれませんか。」 11時を過ぎて、そろそろお客さんが来そうだった。たいしたことではないので、引き受けることにした。500円を預かって、近くのスーパーで100膳入りの割り箸を198円で買った。 既にお客さんがきていたので、 「間に合いましたか」 と聞ききながら、割り箸、釣り銭の302円とレシートを手渡した。まだ割り箸は少し残っていたようだった。 何も受け取らないつもりだったが、おばさんは釣り銭をくれた。さらに、お弁当を三つくれるという。一つ増えている。お金をいただいたから、と帰ろうとしたが、腕をつかまれた。さすがに三つは多いので、二ついただくことにして、買い物をしたかったが帰宅することにした。 せっかく作ってきたお弁当も、割り箸なしでは買ってもらえないだろう。一膳2円にも満たない、おまけだが、割り箸なしではお弁当という商品の価値が半減する。我々の仕事でも、せっかく作り上げたものに、些細だが重要な小物を付け加えることを忘れていないだろうか。 うち帰って、袋をあけてみると、割り箸は入っていなかった。